📋 目次
- ▶ サーモンは14年連続1位|日本人が最も愛する寿司ネタ
- ▶ 30年前まで「サーモン寿司」は存在しなかった
- ▶ 寿司に鮭が使われなかった理由は「アニサキス」
- ▶ ノルウェーの国家戦略「プロジェクトジャパン」とは
- ▶ 最大の壁は「生鮭=危険」という日本人の思い込み
- ▶ ノルウェー流の「根回し」戦略|日本人の心理を徹底研究
- ▶ 「鮭」と「サーモン」を別物にした天才的ブランディング
- ▶ 災難の連続|原油暴落・不漁・サーモン供給過剰
- ▶ オルセンさんが体を張って守った「サーモン」ブランド
- ▶ 回転寿司ブームがサーモンの運命を変えた
- ▶ 1995年、オルセンさんが見た「成功の瞬間」
- ▶ まとめ|サーモン寿司に隠された壮大な物語
📖 この記事でわかること
- ✅ サーモン寿司が30年前まで存在しなかった理由がわかる
- ✅ ノルウェーの国家戦略「プロジェクトジャパン」の全貌がわかる
- ✅ 回転寿司ブームとサーモン人気の意外な関係がわかる
回転寿司に行ったら、あなたは何を最初に取りますか?
多くの人が「サーモン」と答えるのではないでしょうか。実際、マルハニチロの調査では14年連続で回転寿司の人気No.1はサーモンです。
しかし驚くべきことに、このサーモン寿司はほんの30年ほど前まで日本に存在しなかったのです。しかも、それを日本に持ち込んだのは日本人ではなく、遠く離れた北欧の国・ノルウェーでした。
サーモンは14年連続1位|日本人が最も愛する寿司ネタ
マルハニチロが毎年行っている回転寿司に関する全国調査。2012年以来、サーモンは不動の1位に君臨し続けています。
- よく食べるネタ:1位サーモン
- 最初に食べるネタ:1位サーモン
- 最後に食べるネタ:1位サーモン
- コスパがいいと思うネタ:1位サーモン
鮮やかな見た目、脂の乗った食感、クセのない味。しかもマグロより安い。サーモンが愛される理由は明確です。
しかし、この「当たり前の存在」には驚くべき裏話がありました。
30年前まで「サーモン寿司」は存在しなかった
水産庁の公式ページにはこう記載されています。
「元々日本では鮭を生で食べる習慣はほとんどありませんでした」
1989年のノルウェー政府の市場調査報告書にも「サーモン寿司を食べる習慣が日本に導入されたのはごく最近であり、まだ広く受け入れられてはいない」と記されています。
もちろん、日本人が鮭を食べなかったわけではありません。江戸時代には北前船で北日本の鮭が全国に届けられ、明治の学校給食は「おにぎり・漬物・塩鮭」が定番でした。和食の朝食にほぼ必ず焼き鮭があるのは、それだけ鮭が身近だった証拠です。
ではなぜ、寿司にだけは鮭が使われなかったのか?
寿司に鮭が使われなかった理由は「アニサキス」
その答えはアニサキスという寄生虫です。
アニサキスはサバ、アジ、サンマ、カツオなど多くの魚に寄生します。しかし他の魚では主に内臓にいるのに対し、鮭では人間が食べる身の部分にも多く寄生する傾向が強いのです。
取り除きにくいから、必ず加熱して食べる。これが日本人と鮭の長い歴史でした。
江戸時代に寿司が今日と同じ姿になっても、当時の絵のどこにも鮭は見当たりません。
ノルウェーの国家戦略「プロジェクトジャパン」とは
ノルウェーでは1960年代にサーモンの養殖が始まり、1970年代にはヨーロッパに大量供給するまでに成長していました。
次に目をつけたのが人口1億人の魚食大国・日本です。
- 1974年・1985年:ノルウェーが大規模視察団を日本に派遣
- 1980年代:日本は世界最大の水産物輸入国に
- ノルウェー政府・業界団体が結集し「プロジェクトジャパン」を立ち上げ
- 目標:3年以内に対日輸出を倍増させること
このプロジェクトの中心人物の一人が、ビョルン・エリック・オルセンさん。14歳の時に黒澤明の「七人の侍」を見て日本文化に夢中になり、ノルウェーの大学で水産業を学んだ後に来日。水産業の知見と日本文化への深い理解を買われて、プロジェクトジャパンに携わることになりました。
最大の壁は「生鮭=危険」という日本人の思い込み
オルセンさんが大使館でサーモン寿司を振る舞った時、反応は真っ二つに分かれました。
見向きもしない。匂いを嗅いですらくれない。「アニサキスが危険だ」という知識があるため、食べることすら拒否。
美味しいと好反応。先入観がないから、素直に味を楽しめた。
しかし事実として、養殖サーモンはアニサキスが取り除かれた餌を与えられているため、寄生虫がつく余地はありません。問題は事実ではなく「誤解」だったのです。
ここからプロジェクトジャパンの戦いは、この誤解を丁寧に解くことになりました。
ノルウェー流の「根回し」戦略|日本人の心理を徹底研究
オルセンさんはいきなりサーモンを売り込むことはしませんでした。まず日本人との信頼関係を築くことに全力を注いだのです。
プロジェクトジャパンの報告書には「日本人の精神を分析した章」があり、オルセンさんは土居健郎の『「甘え」の構造』を参考にしていました。
- 欧米:個人→緩い集団→公共社会
- 日本:個人→身内(家族・親友)→知り合い(先輩後輩・仕事関係)→他人
- 他人から身内に入るには、まず「義を果たし合う知り合い」になる必要がある
- 礼儀を守り、贈り物を送り、遠慮し合う関係を経て、やがて「人情」が湧く
オルセンさんは日本の業界団体を訪ね、地元の祭りや旅行を一緒に楽しみ、ノルウェー人が「仲間」であることを理解してもらえるよう努めました。
報告書にはこうも書かれています。
「鮭」と「サーモン」を別物にした天才的ブランディング
プロジェクトジャパンが打った施策の中で、最も巧妙だったのが名前の戦略です。
それは加熱用の「鮭」と刺身用の「サーモン」を無意識に別物だと認識させるための、ノルウェーの意図的な戦略でした。「鮭=アニサキスが怖い」というイメージから切り離すためです。
これはAppleがiPhoneを「スマートフォン」と呼ぶのを避けているのと同じ発想です。
他にも、フジテレビ「料理の鉄人」に出演したフレンチシェフ・石鍋裕氏にサーモン料理を作ってもらったり、全国で試食会を開くなど、地道にサーモンの印象を改善していきました。
災難の連続|原油暴落・不漁・サーモン供給過剰
しかし、プロジェクトジャパンは順風満帆ではありませんでした。むしろ災難の連続だったのです。
- 1986年:ノルウェーで原油価格が暴落→バブル崩壊級の不況が発生
- プロジェクトを主導した漁業大臣が辞任、予算が当初の1/3に削減
- 同年、日本への主要輸出品だった鯖が不漁→1987年から漁獲量ゼロに
- サーモン養殖は拡大し続けたが需要が追いつかず大量の在庫が発生
- 供給過剰で価格暴落→養殖業者が800社から400社に半減
追い詰められたノルウェー国内では「冷凍サーモンを日本に焼き鮭用として売ればいい」という声が上がりました。プロジェクトジャパンとは別ルートで、マルハニチロと1万2000トンの交渉が始まったのです。
オルセンさんが体を張って守った「サーモン」ブランド
これに対し、オルセンさんは猛反対しました。
オルセンさんは大使と共にノルウェー外務省や漁業省に電話をかけ、銀行や業界がマルハニチロに売ることを止めさせました。
代わりに、ノルウェーの関係者が個人的なコネクションを使い、ニチレイに5000トンを特別価格で提供。条件は「寿司用として、スーパーや回転寿司チェーンに卸すこと」でした。
回転寿司ブームがサーモンの運命を変えた
1990年代、日本ではバブル崩壊が起こりました。企業は接待費やボーナスを削り、高級寿司屋から客が離れていきました。
その受け皿になったのが手頃な価格の回転寿司です。
しかし回転寿司にも悩みがありました。寿司の看板ネタであるマグロの漁獲量が減り、手に入りにくくなっていたのです。
実際にサーモンを回転寿司で出してみると、予想を上回る人気になりました。
- 回転寿司の顧客層は若者や家族連れ→先入観が少ない
- 回転寿司では子供でも自分でネタを選べる
- 先入観のない子供が鮮やかなサーモンを真っ先に取る
- 子供が「美味しい!」と言うと、親も釣られて食べる
- 親もサーモンの美味しさに気づく→連鎖的に人気が拡大
こうしてサーモン寿司は、あっという間にマグロと並ぶ人気を獲得しました。
1995年、オルセンさんが見た「成功の瞬間」
プロジェクトジャパンが終了して5年後の1995年。オルセンさんは散歩中、ふと街中の何の変哲もない寿司屋のサンプルに目をやりました。
そこには、5年前には一切見かけなかったサーモン寿司がありました。
オルセンさんはここで初めて、プロジェクトジャパンが成功したのだと実感したそうです。
40年前、ノルウェー人に「生魚を食べてみないか」と言えば「危険だ、絶対にやらない」と拒否されていました。アメリカやイギリスでも同じでした。
しかし日本の寿司文化とノルウェーのサーモンが出会ったことで、世界中の人が生魚を楽しむようになったのです。今日、ノルウェーの養殖サーモンの3割は刺身用に使われていると言います。
まとめ|サーモン寿司に隠された壮大な物語
- サーモン寿司は30年前まで日本に存在しなかった
- 鮭を生で食べなかったのはアニサキスの問題があったから
- ノルウェーが国家プロジェクトで日本に養殖サーモンを売り込んだ
- 「鮭」と「サーモン」を意図的に別ブランドにした
- 日本人の文化・心理を徹底研究し、信頼関係の構築から始めた
- バブル崩壊→回転寿司ブーム→若者・子供が火付け役に
- 結果、14年連続人気No.1の国民的寿司ネタに
いきなり商品を売り込む。相手の文化や心理を無視する。短期的な利益のためにブランドを壊す。
まず相手の文化を理解する。信頼関係を築いてから提案する。長期的なブランド価値を守る。
次に回転寿司でサーモンを食べる時、「これはノルウェー人が30年かけて届けてくれたんだな」と思い出してみてください。日常の「当たり前」の裏にある物語に目を向けると、世界の見え方が変わります。
「回転寿司で一番人気のネタ知ってる?サーモンなんだけど、実はこれ30年前まで日本に存在しなかったんだよ。鮭にはアニサキスがいるから生で食べる習慣がなかった。それをノルウェーが国家プロジェクトで日本に売り込んだの。しかも”鮭”って呼ばずに”サーモン”って呼ばせたのも、危険なイメージと切り離すための戦略だったんだって。今度サーモン食べる時、ちょっとノルウェーに感謝してみて笑」


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