日本人に英語は本当に必要か?通説を覆す言語学的根拠

自己啓発

📖 この記事でわかること

  • ✅ 日本人に英語が本当に必要かどうかの判断材料が得られる
  • ✅ TOEFLの国別ランキングが信用できない理由がわかる
  • ✅ 明治時代の翻訳戦略から学ぶ日本語の強みがわかる

「グローバル化の時代だから英語は必須」「日本人は英語が下手」「英語教育が失敗している」——この3つ、もはや疑う人はほとんどいません。しかし、もしこれらが全て間違っていたらどうでしょうか?

東京大学が大学院の授業を英語化する方針を発表し、物議を醸しました。「世界の一流大学はすでに英語で授業をしている。東大もこの流れに乗り遅れるわけにはいかない」という理屈です。一見もっともに聞こえますが、この主張を支えている3つの通説には、実は大きな穴があります。

💬 一言で言うと、「英語が必要」という焦りの正体は、歴史的・言語学的な根拠を無視した思い込みかもしれません。

通説①「グローバル化の時代に英語は必須」は本当か?

実は日本がグローバル化の波に飲まれたのは、今が初めてではありません。それどころか、過去には国の存亡が危機に瀕するほどの急速なグローバル化を経験しています。

江戸時代末期、それまで安定した鎖国状態を維持していた日本に、オランダ以外の異国船が出没するようになりました。決定的だったのが1808年のフェートン号事件です。

オランダ国旗を掲げた船が長崎に入港。調査に向かった役人に突きつけられたのは、英語で書かれた脅迫状でした。「水と食料を出さなければ大砲で街を攻撃する」——実はイギリス船がオランダ船を装って侵入してきたのです。

さらに1840年、イギリスはアヘン戦争で中国を打ち負かしました。日本人がお手本にしてきたオランダも中国も衰退し、時代の最先端はイギリスに移ったことを痛感。英語学習をしない選択肢は残されていませんでした。

明治日本が選んだのは「英語を学ぶ」ではなく「日本語に翻訳する」だった

明治政府は国家予算の3分の1を投じて外国人を招き、西洋の学問を英語で学び始めました。エリートは大量の知識を吸収できましたが、ここで深刻な問題が生じます。

⚠️ 言語の壁が国を分断する

上流階級は外国人教師に学び留学もできる。しかし英語ができない平民は欧米の学問にほとんど触れられない。エリートだけで工業はできません。知識を国民全体に広げられなければ、日本は一等国にはなれなかったのです。

この問題に対して、2つの解決策が提案されました。

❌ 森有礼の提案

国民全員が英語を身につける。学校では英語を使い、日本語は日常生活のみ。「英語を国語として採用すべき」と主張。

✅ 馬場辰猪・福沢諭吉の反論

英語を公用語にすれば、英語ができない国民は政治や社会から締め出される。上層と下層の完全な亀裂が生じ、国の統一は失われる。日本語で教育すべき。

福沢諭吉はこう言い切りました。「日本語は不便だから英語を使えなどと取るに足らないバカなことを言うものがいる。国の言葉はその国で扱う事柄が増えるのに応じて自然と豊かになるものだ」と。

漢字が最強の翻訳ツールだった理由

日本が選んだのは「翻訳」でした。しかし英語と日本語は言語的にあまりにも離れているため、簡単ではありません。

例えば「telephone」。フランス語への翻訳は簡単です。英語もフランス語も共通してラテン語・古代ギリシャ語の影響を受けているため、ギリシャ語の「遠く(tele)」と「声(phone)」に対応する語を探してくっつけるだけ。フランス人は見たことがなくても「遠くの声を聞くもの?」と推測できます。

一方、日本語にはラテン語もギリシャ語もありません。「テレフォン」とカタカナにしても意味不明です。

💬 そこで活躍したのが漢字です。「電気を使って遠くの人と話す機械」→「電話」。漢字を知っていれば、見たことがなくても意味が推測できる。これが翻訳の核でした。

学問の名前はその典型です。

  • Engineering → 工学(工の学問)
  • Astronomy → 天文学(天の文様の学問)
  • Psychology → 心理学(心の理の学問)
  • Pharmacy → 薬学(薬の学問)

英語のカタカナ表記では何のことかわかりませんが、漢字にすれば一目で大まかな内容がわかります。これは実は英語話者にさえない利点です。英語の学術用語はラテン語由来で、英語話者でも初見では意味を推測できないことが多いのです。

この翻訳戦略の成果は驚異的でした。

  • 幕末まで毎年100語足らずだった新語が、明治に入ると年間500~1000語に急増
  • 1870年時点でほぼゼロだった専門書が、たった40年でフランス語とほぼ同数
  • 世界で3番目に専門書を持つ国に成長
  • 専門書の増加に比例して工業が急速に発達。40年間で最も工業化が進んだ国

西洋の知識を日本語化したことで、かつて英語学習に費やさなければならなかった膨大な時間を、より生産的な技能習得に使えるようになったのです。

夏目漱石は「英語力低下」をむしろ歓迎した

興味深いことに、明治後期になると「若者の英語力が低下している」と嘆く声が出始めました。新渡戸稲造や伊藤博文、津田梅子のように欧米人も驚くほどの英語力を持つ人材が現れなくなったのです。

しかし夏目漱石は、これをむしろ良いことだと考えました。

💬 「英語の力が衰えた一原因は、日本の教育が正当な順序で発達した結果で、当然のことである」——夏目漱石

漱石が若い頃、大学の教授は全員外国人で、教科書も何もかも英語でした。しかし翻訳が進んだことで、日本人教授が日本語で教えるようになった。学生は英語学習から解放されたのです。

その結果、日本はイギリス植民地でもなく、ヨーロッパ系の言語も持たず、英語圏でもない、最初の先進工業国となりました。

通説②「日本人は英語が下手」——その根拠は正しいか?

日本人が英語を話せない理由は一言で言えば「必要ないから」です。しかしそれ以上に見落とされている事実があります。

⚠️ 言語学的事実:日本語は英語から最も遠い言語

アメリカ国務省の外交官育成における言語難易度調査で、日本語は最も難しいカテゴリに分類。しかも同カテゴリの韓国語・中国語よりもさらに難しいと補足されています。裏を返せば、日本人にとって英語は世界で最も習得が難しい言語なのです。

「中高6年間も学んで話せないのは教育の失敗だ」という批判がよくあります。しかし冷静に計算しましょう。

  • 英語話者が日本語を習得するのに必要な時間:約2,200時間
  • 中高6年間の英語授業の合計時間:約600時間
  • 必要量のわずか3分の1で世界最難関の言語を習得しようとしている

そもそも授業だけで完璧にならないのは英語に限った話ではありません。体育の授業だけでスポーツ選手にはなれませんし、数学の授業だけで数学者にはなれません。

TOEFLの国別ランキングが信用できない決定的な理由

「日本人の英語力が低い」と言われるとき、必ず持ち出されるのがTOEFLの国別ランキングです。107言語中、日本語話者は94位。カザフスタンやルワンダ、ソマリアと同列です。

しかし、ここで気づくべきことがあります。

  • 世界最貧国の一つルワンダと同列?
  • 40年以上内戦が続くソマリアと同列?
  • そして極めつけに、母国語が英語の人の点数はなんと24位。英語話者が英語力1位を取れない

なぜこうなるかというと、TOEFLはそもそも国全体の英語力調査ではないからです。TOEFL運営元のETS自身がこう注意しています。

💬 「TOEFLの点数に基づいて国を順位付けする行為は支持しておらず、それはデータの誤用です。受験者が各国の英語話者全体を代表していないため、順位付けには意味がありません」——ETS公式

TOEFLを受けるのは基本的に英語圏の大学に留学予定の人です。つまり元々英語力が高いごく限られた層の成績です。ルワンダやソマリアで高得点が出るのも、受験者がそういった特殊なエリート層だからです。

一方、日本ではTOEFLは英検と似た感覚で「気軽に英語力を確かめるための試験」として受ける人が多い可能性があります。英語圏への留学予定がない人も含まれるため、平均点が低く出やすいのです。

実際のデータが示す「日本人の本当の英語力」

理想に最も近い調査として、2000年にアジア・ヨーロッパ18カ国で行われた英語力のアンケート調査があります。言語学者の寺沢拓敬氏の分析によると、意外な事実が見えてきます。

  • 日本は確かに高度な英語力でも基礎的な英語力でも低い
  • ただし韓国・中国・台湾と大差はない(TOEFLの結果とは違う)
  • 英語を全く理解できない人の割合は、ヨーロッパの国々と比べても少ない
  • 年齢構成の差を調整すると、日本人の英語力はイタリアより高い

日本の英語力の最大の特徴は「格差が小さいこと」

さらに興味深いのが、英語力に影響を与える要因の国際比較です。

一般的に若くて、ホワイトカラーで、高学歴で、収入が多いほど英語力は高まります。シンガポールではその典型で、大学に進学するかどうかで英語力に40倍の差が生じます。

❌ 諸外国の英語

英語は「エリート語」。大学進学や高収入のために必須。特定の階層は非常に高い英語力を持つ反面、そうでない人々は初歩的な英語すら話せない。格差が大きい。

✅ 日本の英語

英語は「一般教養」。若さ・職業・学歴・収入のどれも英語力にそれほど影響しない。調査対象国の中で最も格差が小さい。

つまり日本の英語力は「全体的に低い」のではなく、「エリートだけが突出して高いという構造になっていない」のです。これは明治の翻訳戦略——誰もが日本語で学べる体制を築いた結果と言えるでしょう。

通説③「英語教育が失敗している」は的外れ

ここまでの議論をまとめると、英語教育改革を支える3つの通説は、いずれも根拠が怪しいことがわかります。

  • 通説①「英語は必須」→ 明治日本は翻訳によって英語なしで先進国になった
  • 通説②「日本人は英語が下手」→ TOEFLは国の英語力指標として不適切。実際の調査では韓中台と大差なく、イタリアより上の可能性
  • 通説③「英語教育の失敗」→ 600時間で2,200時間分の習得を求めるのが無理。授業だけで完璧にならないのは全教科共通

日本の英語教育改革を支えているのは、データに基づく冷静な分析ではなく、「時代に乗り遅れるのではないか」という日本人の焦りです。その焦りがTOEFLのような不正確なデータの誤用を許し、歴史的な成功体験を忘れさせているのです。

もちろん、英語が個人のキャリアに役立つことは否定しません。しかし「日本人全員が英語を話せるようにならなければならない」という前提自体を、一度立ち止まって疑ってみる価値はあるのではないでしょうか。

🎯 今日やる1アクション

「自分にとって英語は本当に必要か?」を、周囲の空気ではなく自分の仕事・生活の実態から考えてみましょう。必要なら学ぶ、不要なら他のスキルに時間を投資する。それが最も合理的な選択です。

🍺 飲み会で使える1分トーク

「TOEFLの国別ランキングで日本は94位なんだけど、実は英語が母国語の人ですら24位なんだよね。運営元も『国の順位付けに使うな、データの誤用だ』って言ってる。しかも実際の調査では日本人の英語力ってイタリアより上かもしれないんだって。明治時代に漢字で翻訳しまくったおかげで、英語なしで先進国になれた唯一の非西洋国なんだよ。英語教育の失敗って言うけど、むしろ日本語で学べる環境を作ったのが大成功だったっていう話」

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