会社を乗っ取られた起業家の実話『闇と闇と光』が怖すぎる

📖 この記事でわかること

  • ✅ M&Aで起業家がハメられた手口の全容がわかる
  • ✅ LPS契約の危険な落とし穴がわかる
  • ✅ 専門家に任せきりにすることのリスクがわかる

「自分の会社の株を8割持っているのに、会社を乗っ取られる」——そんなことがあり得ると思いますか?

今回紹介する『闇と闘と光』は、起業家・江島さんが実際に体験した会社乗っ取り事件を”一応フィクション”として書いた小説です。

なぜフィクションなのか? 実名で書くと訴訟が起こるから。主人公の名前は著者とほぼ同じ「島」。敵の名前だけ仮名。つまり、実質ノンフィクションです。

💬 一言で言うと「M&Aのプロに会社を乗っ取られた起業家が、取り返すために戦う壮絶な実話」です。

起業家がエグジットを目指した理由

著者の江島さんは、それなりに大きな会社を創業した起業家。しかし、そろそろのんびりしたい。そこで「エグジット(会社を売って資金を得ること)」を考え始めます。

ただし、普通に株を売るのではなく、プロのアドバイスを受けて「2段階エグジット」という方法を選びます。

  • 1段階目:株の持ち分をほぼ維持したまま、まず10億円を得る
  • 2段階目:将来、会社がさらに成長してから株を売って、もっと大きなリターンを得る

株を手放さずにお金だけ先にもらえる。これは「現代の錬金術」と呼ばれるスキームです。完全に合法ですが、名前からして怪しい匂いがしますよね。

カギは「間にもう1社挟む」こと

この錬金術を可能にするポイントは、間に新しい会社(組織)を1つ挟むということ。

新しい親会社を作って、元の会社を子会社にする。そして親会社の持ち株をうまく操作することで、元の会社の支配権を維持したままお金を得られる仕組みです。

💬 税務や財務の世界では「間に1社挟む」が万能テクニック。前澤友作さんが愛人にお金を渡すときも、間に無関係な会社を挟んで雑所得処理したという話があるほど。

今回、江島さんが作ったのは「LPS(投資事業有限責任組合)」という特殊な組合。

江島さんが80%出資、M&Aコンサルの水森(仮名)側が20%出資。このLPSが、後に元の会社の株に化ける「種」のようなものです。

つまり、LPSが完成すれば、江島さんは元の会社の株を8割持てる状態に戻れる予定でした。

「苦楽を共にした仲間を守りたい」という想い

江島さんがこのスキームを選んだ理由は、お金だけではありません。

通常のM&Aでは、買収した側が「うちの人間が経営した方がいい」と言って、元の役員を全員クビにするケースが非常に多い。

でもこのスキームなら、自分が株の8割を持ったまま。つまり、今の幹部をそのまま経営に残してあげられる。江島さんは仲間想いの人だったんです。

こうして10億円を手にし、仲間の雇用も守り、江島さんは悠々自適な暮らしを始めます。

——のはずでした。

突然の連絡「幹部がクビになりました」

しばらく経ったある日、衝撃の連絡が届きます。

「幹部の1人がクビになりました」

「え? 自分が8割出資してるのに、なぜ?」——当然の疑問です。

⚠️ ここで衝撃の事実が判明

LPSの契約では、出資割合に関係なく「リーダー(無限責任組合員=GP)」に任命された人物が独断で全てを決められるという仕組みだった。

そして江島さんは、そのリーダーになっていなかった。リーダーはM&Aコンサルの水森だった。

なぜ80%出資者なのに権限がないのか

株式会社の常識では、持ち株比率が高い方が意思決定権を持つ。51%持っていれば、自分の意見を通せる。

しかし、LPSは株式会社ではありません。特殊な組合契約です。ここでは出資割合ではなく、契約で決められた「リーダー」が全権を握る

江島さんは「事業から離れたい」という気持ちがあったため、実務をやってくれるコンサルの水森をリーダーに据えていました。「8割は自分が権利を持ってるから大丈夫」と思って。

💬 株式会社の感覚に慣れた経営者にとって、LPSの「リーダー総取り」ルールは完全な初見殺し。しかも会社を売る経験なんて人生で1回あるかないか。相手はM&Aのプロ。勝てるはずがない。

なぜ契約時に気づけなかったのか?

「契約書を読まなかったの?」と思いますよね。いえ、ちゃんと読んでいます。いや、正確に言うと読ませています

何が起きたか、順を追って見てみましょう。

  • 水森がLPS契約書(何百枚もの書類)を用意して「確認してください」と送付
  • 江島さんは素人判断では無理なので、長年信頼している顧問弁護士に精査を依頼
  • 弁護士に「通常の契約と違う点を洗い出して」とお願い
  • 弁護士は2箇所を指摘し、「他は全て標準的な契約です」と回答
  • 江島さんは指摘された2箇所を確認し、問題なしと判断してサイン

問題は「通常の契約と違う点を洗い出して」というお願いの仕方。

弁護士さんは、経済産業省のLPS標準契約書と比較して、差分だけを抽出しました。そして「リーダーが全権を持つ」というのはLPS契約の標準仕様。だから「異常な点」としてはピックアップされなかった。

❌ 起きてしまったこと

「通常の契約と違う点を出して」→ LPSとしては普通の条項なのでスルー → 株式会社の常識とLPSの常識のズレに誰も気づかない

✅ こうすべきだった

「この契約で自分にどんなリスクがあるか全部教えて」と聞く → 株式会社との違いも含めて説明してもらえた可能性がある

弁護士さんを責められるかというと、それも難しい。社長が「LPSでいく」と言っているなら、「この人はLPSの仕組みを理解した上で判断しているんだな」と思うのが自然。いちいち「LPSとは出資比率で決まらないんですよ」と説明するのは、「会社って株で決まるんですよ」と説明するくらい当たり前のこと。

著者自身もこう書いています。

💬 「”通常の契約”というフレーズ。これが弁護士と私の根本的な知識の違い。ここが今回私が読者に最も伝えたい、事業者の無知ゆえに起こった悲劇的M&Aの始まりだった」

「無知なものが食い物にされる」という現実

この本で何度も繰り返されるメッセージがあります。

「無知なものが食い物にされるのだ」

会社を売るという経験は、人生で1回あるかないか。でも相手のM&Aコンサルは、それを何十回もやっているプロ。

情報の非対称性がある場面では、「知らない側」が圧倒的に不利になる。これはM&Aに限らず、不動産でも保険でも投資でも同じです。

⚠️ この話の本質的な怖さ

ハメた側に「悪意があった」と証明するのは、外側からはほぼ不可能。契約書は合法、手続きも正規。でも結果として、80%出資した創業者が全ての権限を失っている。

合法的に人を破滅させる方法が、この世には存在するということです。

この本が「最高に面白い」理由

ここまで読んで「重い話だな…」と思ったかもしれません。でもこの本、実はめちゃくちゃ面白い。

なぜなら、ここからが本番だからです。江島さんは乗っ取られた会社を取り返すために戦い始める

敵の「水森」も業界では評判の悪い人物として知られており、ネットで「闇と闇と光 水森 モデル」と検索すると一瞬で正体が出てくるという、もはやフィクションの体をなしていない痛快さ。

  • 実話ベースのリアルな緊張感
  • M&Aや財務のスキームが物語として学べる
  • 「会社を取り返す」という逆転劇のカタルシス
  • 敵の正体がネットで一瞬でバレるという面白さ

私たちが学ぶべき教訓

この本から得られる教訓は、起業家でなくても応用できます。

❌ NG:専門家に丸投げ

「プロに任せておけば大丈夫」「弁護士がOKと言ったから安心」——自分が仕組みを理解していないまま判断すると、取り返しのつかない事態になる

✅ OK:自分でも最低限理解する

大きな契約・決断の前には、仕組みの基本を自分で学ぶ。専門家には「リスクを全部教えて」と聞く。「知らなかった」は自分を守ってくれない

🎯 今日やる1アクション

次に大きな契約(保険・不動産・転職など)をする際、専門家に「通常と違う点」ではなく「自分にとってのリスクを全部教えてください」と聞いてみよう。質問の仕方1つで、見落としを防げる。

🍺 飲み会で使える1分トーク

「知ってる? 会社の株を8割持ってても、会社を乗っ取られることがあるんだって。ある起業家がM&Aコンサルに任せたら、LPSっていう特殊な契約のせいで全権限を奪われたの。しかも弁護士にチェックしてもらったのに気づけなかった。理由は”LPSとしては普通の契約”だったから。質問の仕方が違ったんだって。怖くない? これ実話なんだけど、訴えられるから小説ってことにしてるらしい(笑)」

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