育休退園とは?日本の保育制度の闇と母親たちの集団訴訟

📖 この記事でわかること

  • ✅ 育休退園制度の仕組みと歴史がわかる
  • ✅ 所沢市の集団訴訟の経緯がわかる
  • ✅ 保育園の点数制度(利用調整)の実態がわかる

「2人目が生まれるから、上の子は保育園を退園してください」

もしこんなことを言われたら、あなたはどう思いますか?

2人目の育児で手がいっぱいなのに、上の子の面倒まで自宅で見ろというのです。意味がわかりません。

しかし、これは実際に日本で起きている現実です。その名も「育休退園」

今回は書籍『孤独な育児のない社会へ 未来を開く保育』をもとに、この理不尽な制度の実態と、行政に立ち向かった母親たちの集団訴訟の記録を紹介します。

💬 一言で言うと、「育休を取ると上の子が保育園を強制退園させられる」という信じがたい制度が、今も日本の一部自治体に残っているという話です。

育休退園とは?──2人目が生まれたら上の子は退園

育休退園とは、親が育児休業を取得した場合、すでに保育園に通っている上の子を退園させる制度のことです。

ロジックはこうです。

  • 保育園は「仕事などで自宅で子供を見られない親」の代わりに預かる場所
  • 2人目が生まれて育休を取る → 家に親がいる
  • 家に親がいるなら保育園は不要 → 上の子は退園

一見すると筋が通っているように見えますが、現実は全く違います

生まれたばかりの新生児を抱えながら、まだ2歳の「ママべったり」な上の子を1人で見る。これがどれほど過酷か、想像してみてください。

育休は2人目の育児のために取るものです。そこに上の子の世話まで加わったら、育休の意味が崩壊します。

⚠️ 制度設計の致命的な矛盾

育休は「2人目を育てるための休業」なのに、その結果として「上の子の面倒も全部見ろ」と負担が増える。これでは2人目を産むこと自体がリスクになり、少子化が加速する一因になっています。

育休退園の歴史──1947年から続く「保育にかける子」の呪い

この制度のルーツは、1947年に制定された児童福祉法にあります。

当時、保育園が預かる対象は「保育にかける子」と表現されていました。「保育が足りない子」という意味です。

1947年当時は、結婚したら女性は家庭に入るのが当たり前。育休を取れば親が家にいるのだから、上の子を保育園に預ける理由はない──これが全国のデフォルトでした。

  • 1947年:児童福祉法制定。「保育にかける子」を預かるのが保育園
  • 2002年:国が「育休退園は緩和していきましょう」と通達
  • 2015年:子ども・子育て支援新制度スタート。「保育を必要とする子」に表現が変更

2015年の変化は大きなものでした。

「保育にかける子」から「保育を必要とする子」へ。つまり、保育の場が「家庭だけ」から「保育園でもいい」に変わったのです。

仕事だけでなく、就職活動や勉強のために子供を預けることも認められるようになりました。

国の方針は明確に「もっと緩和しよう」「もっと子育てしやすくしよう」という方向に向かっていたのです。

所沢市の暴走──緩和の流れに逆行した育休退園の「復活」

2015年、国が「もっと子育てしやすくしよう」と後押しするなか、所沢市は真逆の決定をします

すでに廃止されていた育休退園を復活させたのです。

⚠️ しかも通知は1ヶ月前

4月からの育休退園を通知したのは、わずか1ヶ月前。すでに育休を取る計画を立てていた親御さんたちは「え、1ヶ月後に上の子が退園するの?」とパニックに。

なぜ所沢市はこんな決定をしたのでしょうか?

所沢市の言い分はこうです。

  • 子供の人口は減っていくから、保育園をどんどん作ってもしょうがない
  • 子供を預かるには多額の税金がかかる
  • 国の制度として育児休業中は「保育の必要性がない」と明文化された(※実際にはされていない)

ここが重要なポイントです。国は「保育の必要性がない」とは言っていません。むしろ逆で、「保育が必要な子にちゃんと提供しよう」と言っていたのです。

所沢市はこれを独自に解釈し、育休退園を正当化しました。

本当の理由は「権力ゲーム」だった

本書を読むと、さらに深い事情が見えてきます。

2002年の緩和通達以降、育休退園をやめるかどうかの判断は各保育園の園長に委ねられていました。「うちは育休退園やめましょう」と園長が決めていたのです。

しかし、2015年の制度改革で行政の権限が強化された。所沢市はこれを利用して、保育園から主導権を取り戻すという意味合いも込めて育休退園を復活させたのです。

❌ 所沢市の判断

「保育園が勝手に決めてたのが気に食わない。行政の権限が強化されたから、俺たちが決める。育休退園を復活させる」

✅ 国が意図していたこと

「行政の裁量を広げるから、もっと柔軟に緩和してね。子育てしやすい環境を各自治体で作ってほしい」

正しいかどうかではなく「自分たちが決めたことを通したい」。本書はこの構造を丁寧に描いています。

母親たちの集団訴訟──行政には黙って従ってはいけない

この理不尽な決定に対して、親御さんたちは当然反発しました。

「どういうことですか?」と問い合わせても、行政側は「しょうがないことなので」と取り合わない。

そしてついに、母親たちは集団訴訟に踏み切ります

💬 本書より:「集団訴訟にまで発展した行政と子育て家庭の対立。両者の間にある溝には、育児のあるべき姿や保育所の役割を巡る考え方の違いが潜んでいることが見えてきた」

これは単なる制度の問題ではなく、「育児とはどうあるべきか」という思想の衝突だったのです。

「親が家にいるなら子供は家で見るべき」という古い神話と、「育児の負担を社会で分かち合うべき」という現代の価値観。この2つがぶつかった結果が、集団訴訟でした。

保育園の「点数制度」──緊急医療のトリアージ状態

育休退園の問題と密接に絡むのが、そもそも保育園に入れないという問題です。

2016年にバズった「保育園落ちた日本死ね」は、まさにこの時期と重なっています。

保育園が足りない中で、行政は「どの家庭を優先的に入園させるか」を決めなければなりません。これが「利用調整」と呼ばれる仕組みで、各家庭に点数をつけて優先順位を決めます。

  • 加点の例:シングルマザー・シングルファザー → 優先される
  • 減点の例:祖父母と同居している → 「おじいちゃんおばあちゃんが見られますよね」
  • 減点の例:フリーランス → 「働く時間を自分でコントロールできるから子供見られますよね」

これはまるで医療におけるトリアージです。全員を助けられないから、優先順位をつけるしかない。

日本の保育が緊急医療レベルの状態だということを、この点数制度が如実に物語っています。

⚠️ 点数制度の闇

何点で何が加点・減点されるのかは自治体によってバラバラ。しかも公開されていない場合もあるし、年度ごとに内容が変わることも。親御さんたちはブラックボックスの中身を想像しながら情報戦を強いられているのが現実です。

所沢市が育休退園の妥協策として出したのは、「育休退園した家庭には100点をプレゼントする」というものでした。つまり、一度退園させられても次に入園しやすくなるという話ですが、退園させること自体が問題だという声には応えていません

なぜ育休退園はなくならないのか──「3歳児神話」の呪い

本書が明らかにするのは、育休退園の根底にある思想の問題です。

「子供は3歳までは母親が家で見るべき」──いわゆる3歳児神話。科学的根拠は乏しいにもかかわらず、この考え方が制度の設計者たちの意思決定に影響を与え続けています。

「親が家にいるなら保育園は不要」という発想は、この神話の延長線上にあるのです。

❌ 古い神話に基づく考え方

「親が家にいるなら子供は家で見るべき。保育園に預けるのは親が仕事で不在のときだけ」

✅ 現代に必要な考え方

「保育は社会全体で担うもの。育休中でも上の子の保育を保障することが、安心して子供を産める社会につながる」

まとめ──これは「他人事」ではない

育休退園は所沢市だけの話ではありません。今も日本中の自治体に残っている制度です。

そしてこの問題は、保育園に子供を通わせている人だけの問題でもありません。少子化が進む日本で「2人目を産むのが怖い」と感じさせる制度がある限り、社会全体の問題です。

  • 育休退園=育休を取ると上の子が保育園を退園させられる制度
  • 1947年の「保育にかける子」という発想が現代にまで残っている
  • 2002年・2015年に国が緩和を促したが、自治体によって対応はバラバラ
  • 所沢市は2015年に逆行して育休退園を復活させ、集団訴訟に発展
  • 背景には行政の権力ゲームと古い育児観(3歳児神話)がある
  • 保育園の点数制度(利用調整)も含め、日本の保育は構造的に危機的状態
🎯 今日やる1アクション

自分の住む自治体の「育休退園」の有無を調べてみましょう。自治体のホームページや保育課に問い合わせれば確認できます。知ることが、変えることの第一歩です。

🍺 飲み会で使える1分トーク

「知ってる?日本って2人目の子供が生まれて育休取ると、上の子が保育園クビになる自治体があるんだよ。新生児の世話しながら2歳児も家で見ろって。しかも所沢市なんて、一回廃止したのにわざわざ復活させて、しかも通知が1ヶ月前。親たちブチギレて集団訴訟になったんだけど、そもそもこの制度の根っこにあるのが『親が家にいるなら子供は家で見るべき』っていう昭和の神話なんだって。そりゃ少子化進むよね」

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