📋 目次
📖 この記事でわかること
- ✅ ファインマンがなぜ科学者として以上に人物として有名なのかがわかる
- ✅ 60ページにわたる金庫破りエピソードの面白さがわかる
- ✅ 文系でも楽しめる科学エッセイの読み方がわかる
ノーベル物理学賞を受賞した天才科学者が、もっとも情熱を注いだのは……金庫破りでした。しかも原子爆弾の研究をしている最中に。
今回紹介するのは、リチャード・ファインマンの名著『ご冗談でしょう、ファインマンさん』。1985年にアメリカで出版され、今年で40周年を迎える古典的名作エッセイです。
ファインマンは科学者として以上に「人物」として有名
ファインマンの功績は「量子電磁力学の発展」や「ファインマンダイアグラムの考案」など、正直ほとんどの人にはピンとこないものばかりです。
それなのに、アインシュタインやニュートンの次くらいに名前が知られている。なぜか?人物のエピソードがとにかく面白いからです。
- 深夜にノーベル賞受賞の電話→「そんなことで起こすな」と怒った
- 受賞後も「面倒だから辞退したい」とマジで言い続けた
- 年収4倍のポストも断った。名誉欲がほぼゼロ
- やりたいことは「真理の追求」だけ
こういうかっこいいエピソードが積み重なって、「科学者ってこういう人なんだ」と知るための入門書として紹介されがちです。でも実は、この本の本質はもっと別のところにあります。
この本は「科学エッセイ」ではなく「いたずらエッセイ」である
タイトルに「物理学者」とあるので、文系の人は敬遠しがち。表紙にも数式っぽいものが書いてあるし、科学の本だと思って手に取らない人が多いです。
でも断言します。これは面白いいたずらエッセイです。
ファインマン本人が、科学の話をしている時よりいたずらの話をしている時の方が楽しそう。科学者としてのエッセイよりも、いたずらする人としてのエッセイの方がページ数が長い。それがこの本の実態です。
本書で最も長い下りは金庫破りの話で約60ページ。一方、2番目の奥さんとの結婚・離婚はわずか5行で処理されています。人生の一大ライフイベントより金庫破りが大事な男。
ファインマンが金庫破りにハマった理由は「知的好奇心」
ファインマンが金庫破りに没頭した最大の動機は、泥棒がしたかったわけではありません。知的好奇心です。
もともとパズルを解くのが大好きな人で、ある時に鍵の仕組みとピッキングの手法を学びました。「こうやって鍵が開けられるのか!」と感動した瞬間、すべての鍵がパズルに見えてしまったのです。
現代の物理学者は「理論物理学者」と「実験物理学者」に大きく分けられます。ファインマンは理論物理学者でしたが、実験装置を手作りしている人たちのところに出向いて観察したり、自分で手を動かしたりするのが大好きでした。
子どもの頃には、壊れた家のラジオを分解して仕組みを理解し、修理に成功。そこから近所のラジオ修理職人として活躍し、お金までもらっていたそうです。「仕組みを理解して手を動かして直す」が、昔からの原体験だったんですね。
マンハッタン計画の最中に1年半かけて金庫破りを極めた
ファインマンが金庫破りに没頭していたのは、なんとマンハッタン計画(原子爆弾の研究)に参加していた時期です。当時はまだ博士課程の学生で、博士論文を書きながらの参加。最年少メンバーでした。
その超多忙な時期に、金庫破りの本を複数冊取り寄せて研究し、実際の鍵を分解して調べ、まるまる1年半を費やして金庫破りの達人になりました。
エッセイの中で「1年半も金庫破りをやっていた」と書いた直後に、カッコ書きで「ちゃんと物理もやっていた」と補足しています。誰に言い訳してるんだ、という話ですが。
【爆笑】同僚フレディの金庫を破ってルパン的メモを残した話
金庫破りのエピソードは8つほど登場しますが、中でも最高に面白いのがこれ。同僚のフレディという陸軍の男の金庫を破った話です。
ファインマンはフレディから機密書類を借りようと思いましたが、留守でした。普通の人なら後で出直します。ファインマンは金庫を破りました。
フレディの金庫は3つありましたが、全部同じ暗証番号でした。1つ開けたら全部開いた。そこでファインマンは3つの金庫にそれぞれ手紙を残します。
- 1つ目:「公文書43125を借りた。金庫破りのファインマン」と署名
- 2つ目:「これもさっきのと同じくちっとも苦労しなかった。生意気な男」
- 3つ目:「コンビネーションがみんな同じだと、どいつもこいつも開けるのは簡単だ。同じ男」
完全にルパン三世です。ウキウキで帰るファインマン。
フレディが金庫を開ける瞬間を目撃する展開が天才的
帰り道でカフェテリアにいるフレディを偶然見かけたファインマン。「これからオフィスに行く」と聞いて、これは金庫を開けて手紙を見つけるところが見られるぞ、と思い「俺もついていっていい?」と同行します。
ところがフレディは3番目の金庫から開けてしまいます。つまり「金庫破りのファインマン」という署名が入っていない方。出てきたのは「コンビネーションがみんな同じだと簡単に開けられる。同じ男」というメモだけ。
フレディはみるみる顔が青くなります。全部同じ暗証番号にしていた自分のセキュリティの甘さに気づき、しかも「同じ男」という署名から、犯人が誰かわからないまま大パニック。
ファインマンは横で知らんぷりして「どうしたんだい?」と聞きます。自分が犯人なのに。フレディが「署名も入ってる」と焦って言うと、「え、署名なんて入ってないけど?」ととぼけます。だって「同じ男」としか書いてないから。
ファインマンから学ぶ「知的好奇心の本質」
爆笑エピソードの連続ですが、ファインマンの行動原理には一貫したものがあります。
- 名誉に興味がない:ノーベル賞を辞退したがるほど、他人の評価を気にしない
- 理論と実践を行き来する:紙の上の理屈を、手を動かして確認するのが最高に楽しい
- やりたいことだけやる:年収4倍のポストも断る。真理の追求だけが動機
- 子どもの頃から変わらない:ラジオ修理→金庫破り→量子電磁力学。スケールは変わっても原動力は同じ
金庫破りも、ラジオ修理も、量子電磁力学も、ファインマンにとっては同じなんです。「仕組みを理解して、自分の手で確かめたい」という衝動。それが彼をノーベル賞に導き、同時に泥棒すれすれの行為にも駆り立てた。
数式が出てくるのはごく一部。本書の大半はいたずらと人生のエピソード集です。
金庫破り60ページ、離婚5行。この配分が全てを物語っています。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』の金庫破りの章(約60ページ)だけでも読んでみよう。文系でも理系でも、声を出して笑えます。
「ノーベル賞とった物理学者ファインマンって知ってる?この人、原爆の研究してる最中に1年半かけて金庫破りの技術を極めたんだよ。しかも同僚の金庫を破って、中にルパンみたいなメモを残して、本人が帰ってきて開けるところをニヤニヤ見てたっていう。離婚の話は5行なのに金庫破りの話は60ページある本があるんだけど、めちゃくちゃ面白いよ。」


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